本屋さんでふと、「面白そう」と思って買ってみた本です。
おもしろおかしいエピソード満載で、藝大の、特にそれぞれの学部についてよくわかる構成になっています。
が、それだけではなく、
みなさん結構マジメだなぁ
という印象を持ちました。
「東大」とか「藝大」と言うと、天才=変人みたいな図式があると思いますが
やっぱり、マジメにバカみたいな事ができる、すごい人たちでした。
その中でも美術学部(美校)は、本当に個性的な人の集まり
副題は、「天才たちのカオスな日常」w
ちなみに、この本が話題となり、マンガ化もされているそうです。
本の概要
最後の秘境 東京藝大 二宮敦人著
目次
1 不思議の国に密入国
2 才能だけでは入れない
3 好きと嫌い
4 天才たちの頭の中
5 時間は平等に流れない
6 音楽で一番大事なこと
7 大仏、ピアス、自由の女神
8 楽器の一部になる
9 人生が作品になる
10 先端と本質
11 古典は生きている
12 「ダメ人間製造大学」?
13 「藝祭」は爆発だ!
14 美と音の化学反応
著者のプロフィール
二宮敦人
1985年東京都生まれ。
一橋大学経済学部卒業。
2009年に「!」(アルファポリス)でデビュー。
ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の小説を世に送り出し人気を博す。
「郵便配達人 花木瞳子が顧り見る」
「占い処・陽仙堂の統計科学」
「一番線に謎が到着します」
「廃校の博物館Dr.片倉の生物学入門」
「最後の医者は桜を見上げて君を想う」
など著書多数。
「最後の秘境 東京藝大-天才たちのカオスな日常-」が初めてのノンフィクション作品となる。
奥様が、東京藝大の彫刻科卒です(^^)
内容
「はじめに」に書いてあるように、著者の奥様は藝大生(当時)です。
奥様から聞く藝大のおもしろい話を、出版の担当者さんに何気なく話すうち
「本にしてみませんか?」ということになったそうで。
身近すぎて、まさか本になるとは思っていなかった著者さん。
数年かけて大学生や教員に取材し、
抱腹絶倒エピソードから、卒業後の現実まで集め、編集したそうです。
「藝大」とひとことで言っても、音楽学部と美術学部は全くの別物で
そもそも”生態系”が違う感じです。
その2つの異質な学部が混ざり合うときもあり、
カオスな化学反応が起こるという・・・
また、その学部それぞれの内部を見ると、
さらに細かい系統の違いがあり
例えば
「ホルン専攻は、ぼーっとしてる」
「ヴァイオリン科の人は、気が強い」
と、かなりマニアックなカテゴリー分けになっています。
このあたりは、私も音楽学部卒なので
「わかるわかるw」
という感じで楽しく読みました。
とにかく、入試倍率は東大の3倍以上の科もある東京藝大。
勉強ではない、技術だけではない、個性を磨く大学のようです。
著者さんの手腕で、より面白く感じます。
すべてが「天才=ヘンな人」のエピソードというわけではなく、
努力に努力を重ねる人の、真摯な姿も垣間見えて
「芸術にふれることは、すてきだな」
と感じることができる本で、好感を持ちました。
印象に残ったエピソード
エピソードは多すぎて、選定が難しいのですが笑。
全体的に、美術学部(美校)の方がぶっ飛んでいるように思えます。(個人的感想です)
生協でガスマスクを売っている
美校では、樹脂加工の授業などがある関係で
ガスマスクを使用することがあるらしく、生協で売られているそうです。
よく使うんでしょうね、ガスマスク。
ちなみに、著者の奥様は当時、現役の藝大生で
「それって、そんなに珍しいことなの?」
とのことですが、やっぱり事情を知らなかったらビックリしますよね。
他にも指揮棒が売られたりしているらしいですが、
この辺は普通じゃないですかね?あれ?笑
ピアノ専攻はお金がかかる
オーケストラの中で弾くと10万円
ドレスを買うと、15万円
これは確かに、実感としてありますが
それでも「人それぞれでは?」とも感じます!
私の話で恐縮ですが、
知り合いの藝大生は
「トイレットペーパーを買うところを、誰にも見られたくない」
という理由で、
実家からダンボールに入れて送ってもらっていました。
どんなお嬢様かしら?と、ちょっと引きました・・・
ま、他のエピソードではド貧乏(失礼)な人も出てきますし、
その全てを含めて「個性」につながるのかもしれないと感じました。
アートとは何ぞ?展示したものを捨てる
「いかに無駄なものを作るか」
とのこと。
だから、せっかく作っても、解体して処分してしまう。
まさしく、これはアートが実用品ではなく、アートである真髄かなと。
つまり、人の役に立つものを作ってしまったらダメ。
そこに挑戦することが大切。
今までにないもの、新しいもの、自分でしか表現できないもの・・・
岡本太郎著 「自分の中に毒を持て」
の中に
好かれる必要はない。売らないという前提で絵を描き、あらゆる面で権威主義にたてつき、いわば常識を超えて、人の言わないことをあえて言い、挑んだ
とあったのを思い出しました。
芸術とは、そういうものなんですね。
まとめ
全体的には、
「情熱を振りかざして、個性を爆発させる!」
みたいな人は少数で
実は、普通に、淡々と好きなことをする人たちが集まっている平和な場所かな
という印象を持ちました。
何かに没頭していると、心が落ち着きますよね。
そういう世界を持った人が集まるところ。
潜入したら、面白そうです。
芸術って、特別な人だけが扱うのではなく、
身近にあるものだと改めて感じました。
芸術は、人間にとってなくてもいいのになくてはならないもの
ほんと、その通り!