「コンビニ人間」を読んだ後、ジワジワと恐ろしい気持ちになった

コンビニ人間

芥川賞受賞作品「コンビニ人間」を読んでみました。

手に取った感じ、薄かったので
「すぐ読めそう」
と思ったのですが、

読後、なんとも言えない気持ちになり、
日常生活がジワジワとおびやかされる感覚に・・・

こういう人、ほんとにいるよね

思い出しました。いろいろ。

出会ったことのない人もいるでしょう。

でも、割と身近にいたりします。
怖くて、ぞ〜っとする感覚を思い出しました。

「また読みたい、大好き」な本ではなく、

「忘れたくても思い出してしまう」

不愉快な、不気味な本です。

かと言って、残虐シーンが出てくるわけではありません。
それがもう、なんて言うか・・・ ほら・・・

その感じが絶妙です。

本の概要

コンビニ人間 村田沙耶香著

著者のプロフィール

1979年千葉県生まれ。小説家。
玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年、「授乳」で第46回群像新人文学賞優秀作受賞。
09年、「ギンイロノウタ」で第31回野間文芸新人賞受賞。
13年、「しろいろの街の、その骨の体温の」で第26回三島由紀夫賞受賞。
16年、「コンビニ人間」で第155回芥川賞受賞。
他の著書に「マウス」「殺人出産」「消滅世界」「地球星人」「生命式」「丸の内魔法少女ミラクリーナ」など。
エッセイに「となりの脳世界」「私が食べた本」がある。

内容

コンビニ店員をしている女性、「古倉さん」が主人公。

幼いころから、共感力にとぼしかったり、人には理解されない行動をする子だった。
家族から心配されつつも、大学生になり、偶然見かけた
「コンビニのオープニングスタッフ募集!」
の張り紙を見て、採用される。

それ以来、「世界の部品」つまりコンビニ店員となり、卒業後も続けること18年。
恋人もいないまま36歳になっていた。

ある日、白羽さんという、かなり個性的な男性が店員としてやってきた。
が、問題アリの人物で、ほどなくしてコンビニ店員をやめてしまった。

お互いに好意は一切無いが、利害が一致したため同居を開始。
周囲の人からは「恋人がいる=普通」と見られるため、都合がよかった。

白羽とのやり取りの中で、コンビニ店員だと路頭に迷うため、辞めて就職活動をすることになった。
しかし、いざ辞めてしまうと「コンビニ」のために整えてきた生活が、乱れに乱れてしまう。

就職活動をするために出かけた先でも、「コンビニ人間」としての本能を優先させてしまい、
あの白羽にさえもさじを投げられてしまう。
そして・・・

ざっくりとはこのような話ですが、
やり取りから垣間見える「ものごとのとらえかた」を読み取る本です。

あと、主人公に共感できる話ではないです。
第3者として読み、自分の内面と照らし合わせて引っ掻き回される感じです。

印象に残ったエピソード

共感力にとぼしい、幼少期

死んでしまった小鳥を「焼き鳥にして食べよう」と言い、周囲をぎょっとさせる。

もしかして、現代だと「発達障害」だと診断されるかもしれません。

お母さんは
「かわいそうだね、お墓を作ってあげようか」
と必死で「共感力」を植え付けようとしますが、主人公には響きません。

「かわいそう」と思えないのです。

どうやって、このような情緒をわかってもらえるようになるんでしょうね。

もしかしたら、生まれつきの感性の違いで、もしくは脳の仕組みの違いで、感じないのかもしれません。
本当にぞっとする。
家族にいたら、いたたまれない状況ですね。

周囲の人の声の出し方が、似てくる話

なるほど、もしかしたら、私も周囲の人の話しぶりが乗り移っているかもしれないと感じることがあります。

語尾だったり、話すスピードだったり・・・

みんな、どこか影響しあって生きているのが人間かもしれません。

ただ、それがまたぞっとするポイントの一つに感じます。
つまり、

「ぞっとする感性を持った主人公と自分自身に、共通点がある」

ということです。

それだけではなく、例えば主人公は、連絡が取れなくて困っている知人に
「持っていきましょうか?」
親切心を表すこともある

一見、ちゃんと人の気持を分かっているようにも見える。
だけど、何かがおかしい。

働いているのだから、社会の一員としては認められている。
だけど、何かが「普通」じゃない。

この「異常」な感じ、
正常な人と同じ行動をするため、
「普通」とみなされているけど、
本当は違う。

なのに、表面上は同じ行動をしている・・・

私もアスペルガーの人にはさんざん迷惑をかけられた側なので
この怖さがよくわかります。

Ayu
Ayu
精神やられます、ほんとに

 

(本の中では、主人公がアスペルガーであると断言されているわけではありません)

「あちら側」かと思っていた白羽さんが「こちら側」の人間だった!?

「あちら」とは、主人公側。
「こちら」とは、主人公の妹などが住む、普通の人間の側。

最後の最後で、白羽さんは主人公に呆れ果てます。
それまで、私は白羽さんも「同類」かもしれないと思っていたのですが、
主人公の妹に、とっさについた嘘からもわかるように
実は社会の仕組みや人間の心理をよく理解した人間でした。

つまり、ただの怠け者であって、発達障害ではない人。
「治す」ことができる、「普通の」人間。

世の中に結構いるよ、そういう人同士、意外と釣り合いが取れるんだよ、
という話ではありませんでした。

我が道を行ってしまう主人公・・・

不気味すぎます。

やっぱり、こちら側の人間からは、距離を取られてしまう運命なのだと思います。

まとめ

なんとなく、題名からしてコミカルな小説かと思いきや
「普通の生活の中に住まう悪魔」みたいな人の話でした。

理解しあって生きていくのは理想ですが、
実際、知り合いに1人でも主人公のような人物がいると、人生が狂います。

でも、本当にいるんですよね・・・

しかも、歯車としては社会で不都合なく生きていけるので、
深く関わらないとわかりません。

悪魔なのに、淡々と、悪気なく、真面目に生きているんです。

この不気味さ、闇の深さがかなり心にきました💦

「普通」の人は、「普通じゃない」人に、どうにか分かってもらおうと努力したりしますが
そもそも「普通」って何?
人類すべてに共通する「普通」なんて存在するの?
わかってもらうことなんて、しょせん無理では?

そんなことを考えさせられます。

すごく印象深い本です。